これが「恥ずかしくなってバラエティ路線」の最初です。
まあウレシ恥ずかし新婚時代てなもんですな。

夏のおもひで

今頃の熱帯夜の季節になると思い出すのは、あの黄金色のエピソード。たしか
新婚の夏でした。2−3日トイレの流れが悪いなあ、とは感じていたのですが、
その日夕食が終わてTVのナイターなど見ていると、催すものがあって、トイ
レで盛大に一仕事終わりました。さて流そうとすると、ここに至って完全に詰
まってしまったのか、水がどんどんせりあがってきます。げっ、このままでは
あふれてしまう、と思っても何もできません。こういう時、人間は無力です。
茫然と見ていると、ぎりぎりのところで止まりました。へへへ、と放心したの
も束の間、黄金色の水はいっこう引きません。それでも10分くらい待ってい
ると、徐々に引きましたが、流そうとすると「物体」が洗濯機のようにぐるぐ
る回るばかりです。そのうちなんとかなるだろう、と個室をでたのですが、そ
の後何回やっても同じ事、ついには全く引かなくなってしまいました。そのう
ち、妻が入りそうになりました。「ちょーっと待った!」

人はなぜ自分のうんこを他人に見られたくないのか、考えてみると、これはな
かなかに高度な問題提起で「パンツをはいた猿」に匹敵するものがあるでしょ
う。繰り返しますが私は新婚だったのです。STJは「もう、すんだあとなん
でしょう?」などと言いましたが、それとこれとは、遠くの親戚より質屋の大
倉です(なんのこっちゃ)。ともかく、私は一応事情を説明して、とりあえず
待ってもらいました。夜も10時頃になってもいっこう事態は改善するきざし
がないので、郵便受けにはいっていたチラシを見て、24時間営業の「業者」
に電話をかけました。ゴーストバスターズのような格好をしたおじさんが50
2号室(そのときはこの部屋だけ借りていました)にやってきたのは、すでに
11時を回っていました。私は「よろしくおねがいします」とはいったものの、
この事態の原因を産んだ(文字通り)本人としては身の置きどころがなく、伏
し目がちで声にも迫力がなかったのです。「ああ、ついにこのおじさんにあた
しのうんこを見られてしまうのね」ほとんど花嫁の心境です。

同学の士(誰じゃ)の為に説明しておきますが、プロの装備は、1.屑拾いに
使う、例のピンセット状道具 2.煙突掃除に使うような長く巻いた竹につい
たブラシ 3.自転車用の空気ポンプの親玉状器具(ホース付き) それに、
例の柄のついたゴムのカップも持参していたのが印象的でしたが、すっかり内
気になった私は、気配だけは耳で探りつつも、プロ野球ニュースなどを、うわ
のそらで見ているふりをしていました。一方、妻は興味津々で見学しているよ
うすです。「奥さん、新聞紙はありませんか?」「はい、どれくらいでしょう?」
「たくさんあればありがたいのですが。」「はいはい」(やめてくれー!こっ
そり処理してくれー)という私の心の叫びとは別に作業は進んでいるようです。
妻がその度に報告に来ます。「ねえねえ、床一面に新聞紙を敷いて、上に並べ
てるわよ。」(やめてくれー!わしのうんこをさらしものにしないでくれー!)
「ねえねえ・・・」(なーーんも聞きたくない!)「ねえねえ・・・」この結
婚は失敗だったかしらという気になってきました。

立て続けに水を流す音がして作業は終了した模様です。
「まあまあ、夜遅くごくろうさまでした。助かりました。まあ、お茶でも・・・」
「はあ、じゃ、ちょっと・・・」「いやいや、どうもお世話になりました。」
私はあくまで伏し目がちです。「つかぬことをうかがいますが、あれはやっぱ
り・・・その、なんていいますか、あの、あれの内容によってああなるものな
のでしょうか?」
「いやいや、ほとんどティッシュペーパーですね。ほらあれは溶けないから・・・」

「はあ、でもそんなものは一度も流してないんですがねえ・・・」
「うーん、お宅の場合は、うーん、なんでしょうかねえ。まあ、本来、そのた
めの物ですから、普通に使って詰まることは、まずありませんよ。」
普通に使って詰まった、私のうんこっていったい・・・とさくらももこのよう
なことを考えつつ「いやー、巨人も弱くなりましたねえ」(まだプロ野球ニュー
スをつけている)と、話題の転換をはかる私であった。
「ねえ、大きいのをするからですよねえ。」と、あくまでもそれを許さない妻
であった。「ま、そういうこともありますか。」と、節操なく学説を変えるお
じさんであった。
やっぱりこの結婚は・・・
そういうわけで1万数千円が消えたこの一件以来、我が家における力関係(本
来の意味での)は、確実に負け越しの一途をたどっていったのでした。