雑踏の誘惑

バブリー上海篇


20〜23,Nov.2010

北村 家康


前書

今年は色々と中国との関係が報道された年です。最大のものは尖閣諸島における不審船の衝突で、経済力をバックに中国が新しい中華帝国としてアジアに君臨する意思をはっきり見せ始めた象徴のように思えます。上海万博はあまり日本人には関心を持たれなかったようですが、OECDの国際学力試験では上海が一位独占というニュースも報じられました。
皆さんは、昔からよく聞くこの上海という都市についてどのようなイメージを持たれているでしょうか?多くの方にとって上海はこの2枚の写真がすべてではないでしょうか。外灘(ワイタン)のバンドから見る対岸浦東地区の垢抜けないタワー、あるいはヨーロッパ調の歴史建造物に和平飯店の老人ジャズバンドの古き善き時代の香り、といったところでしょうか。

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垢抜けないタワー            百年前の歴史建築群

しかし、どこからか引用した、この2枚の写真、実はほぼ同じ地点から、時刻はむろん違いますが東向きと西向きに撮ったものなのです。東京で言えば皇居前広場で皇居と日比谷を撮ったようなものです。これをもって2000万人近い人口(東京23区の2倍)を抱える世界一の大都市(都市圏でいうと東京圏が世界一の3500万で上海は10位)を少しでも理解するのは無理というものです。
今回は、基本的には万博が終わったタイミングで上海蟹を思いっきり「おごってもらうこと」が第一目的ですが、たぶんもうしばらくは恐ろしい勢いでアジア、いや世界のトップを走り続けるこの巨大都市を少しでも理解したいと思ったのです。

予習

私は6・6・6制という学制を経て社会人になったのですが、この18年間に予習と言うものをした記憶は皆無です。しかし、知らないところを旅行するようになって、特に都市については予習をすればするほど面白いことがわかりました。また、インターネットが普及したおかげで、今では現地の事情を現地のサイトから得ることなどが簡単にできるようになりました。
そこで、まず上海の詳細地図を作るところから始めたのですが、ここで驚いたのが中国のポータルサイトである百度の3D地図です。実際には「E都市」というやつなのかもしれませんが、両者は微妙にアングルや範囲が異なっているようです。詳細地図、3D地図、Googleの航空写真と3つを合わせて見ると、現地のイメージはほぼ完璧にわかります。今回宿泊した静安寺のスイスホテル(Swissotel Grand Shanghai:宏安瑞士大酒店)付近をこの3つで見てみましょう。

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百度詳細地図
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百度3D地図            Google航空写真

この3つを見てわかることは、つまり空港からなんとかしてこの地下鉄2号線に乗って静安寺駅で降りて3番出口で地上に出れば、ホテルはすぐそこにあるということなのです。さらに予習したところ、この地下鉄の出口は上海そごうにあたる久光百貨という巨大日本式デパート(3D図左上の屋根に切れ込みのある建物)と空港直通バスが発着するシティエアターミナル(3D図で右下矢印ピンク色の建物)に面していることがわかったのです。

ではどうやってこの地下鉄2号線に乗るかと言えば、まあ浦東空港からも直接乗ることはできます。しかしそれでは面白くないので、空港からまずはリニアモーターカーに乗り、そこでこの地下鉄に乗り継ぐという方向で行きたいのですが、ここで、あるいは全行程にわたって絶対に役にたつのが、この上海公共交通カードです


上海公共交通カード

これはすぐれものです。SUICAなどとは比べ物になりません。地下鉄、バス、タクシー、リニアモーターカー、渡船など、ありとあらゆる乗り物に乗れるのです。これ一枚あれば、こと交通に関して全く現金は必要ありません。デポジット30元で入手し増値機でチャージできます。ただし、空港では入手できないので、どこでもいいですが地下鉄の駅の服務中心で100元で買うのが手っ取り早いと思います。地下鉄は3元から5元程度、タクシーは12〜20元程度ですから、デポジットを引いて70元あれば短期の旅行で困ることはまずありません。使い終わったらこのタイプの標準カードは南京東路駅などで返金してもらえますが、400円くらいのデポジットなら記念として持っておけば、2年間は有効ですし、それを越えても増値機を使えば以前の額が復活するようです。

1日目

成田−浦東は正味3時間半程度です。地図をみればわかりますが、鹿児島と上海はせいぜい東京と広島くらいの距離しかありません。09:40発の全日空NH919便は12:10には着くのです。博多行き新幹線ならやっと岡山という所要時間です。大都市の例に漏れずここも便利な旧空港(虹橋)に対して郊外に広大な新空港を作ってアジア圏のハブにしようというものですからそりゃ広い広い。着陸してタクシィングにもしばらくかかります。

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タクシィング中、広い広い!            磁浮乗り場へ、遠い遠い!

第一ターミナルと第二ターミナルの間にあるリニアモーターカーの乗り場を目指して歩くわけですが、地図で予習して考えていた距離よりはるかに遠く400mくらいは楽にありました。といっても同じフロアの横移動だけなので、それほど大変ではありませんが。

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磁浮プラットフォーム            車輪は無いが車内の同行者

このリニアモーターカーですが、よく知られているようにほとんど実験線のような存在で総距離30Kmしかありません。そこを最高速度430Km/hで走るわけですから7分も走るともう終わってしまいます。今回もなんとか430キロの表示を撮ろうとカメラをスタンバイしていたら、300Km/hから減速して駅に停まりました。あ、途中に駅あるんだ、と思っていたら係員が乗ってきて「トゥーウエイ?」と聞くわけです。なんのことかわからずぽかんとしていると「Here is ロンヤンルゥ」と終点龍陽路駅に着いていたのでした。しかしあれで30Kmというのもそれはそれですごいと思いました。仮にこの距離を東京にあてはめて考えると、龍陽路を箱崎シティエアターミナルと考えると、30Kmというのはちょうど千葉市のあたりになります。つまり、千葉市に空港があって、そこから箱崎まで7分ということで、リムジンバスが成田まで約1時間かかることを考えると、こちらのほうがはるかにスマートと言わざるをえません。

料金は、乗ってきた航空券を窓口で見せるか、公共交通カードを使えば50元のところが40元になります。日本円で500円と、これもなかなかまねできない料金です。えーと、この同行者ですが、今回は一応結婚30周年の旅行をワシがおごろうじゃないか、なおかつ上海蟹を先輩におごってもらおうじゃないかというツアーですので、プランもそれなりにソフトなものにしたつもりです。ま、あっちはどう思ったか怖くて聞けませんが。

これが上海の地下鉄路線図ですが、最近東京の総延長距離を抜いて世界一になりました。まだまだそれでも足りないようですが、この図では右下の隅に浦東空港があり緑色の2号線の12番目に「磁浮線」のマークがあるところが龍陽路駅です。つまりこの12駅分をリニアモーターカーは7分で走るというわけです。


ここで、この緑色の2号線に乗り換えて9駅目の「静安寺」が目的地です。この地下鉄網はほぼ東京と同じ程度の縮尺ですから、先ほどの例で千葉のあたりから箱崎までリニアモーターカーで来て、そこから地下鉄で四谷あたりに出てきたという感じでしょうか。地下鉄は比較的新しい車輌が多いのですが、日本と比べると車内につり革がないのが特徴的です。また、中国人特有の、降りる人を待たず入り口に殺到するという悪癖を考慮したのでしょう、停まってもしばらくドアが開かないのです。この静安寺駅の服務中心で予習した上海公共交通カードを2枚入手しました。これさえあればこの図のどこにでも自由自在に行けるというものです。


予習した通りに3番出口で下りれば巨大デパートの久光百貨前です。そこからシティエアターミナルの前を通ってスイスホテルに着きました。従来は平面地図で見て地理を覚えても、実際にはかなりイメージがかけはなれていることが多かったのですが、今回は3D地図と航空写真のおかげで、予習したイメージとほとんどズレがありません。まるで一度来たことがあるような感じすら覚えるのです。


スイスホテルは5つ星のホテルですが、日本で発行されている旅行ガイドにはあえて名前を載せていないそうです。建物も比較的地味で、タクシーの運転手に言っても「ん?」という反応が返ってくることが多かったように感じました。「静安寺、久光百貨的后面的飯店」とか言ってやっと「ああ、わかる」という反応でした。ヨーロッパ調のインテリアも落ち着いていて、ベッドも大きくて上質なものを置いています。宿泊客はヨーロッパ系の人が多いように思いました。とはいえ、日本語が話せるスタッフもいますし、ホスピタリティという面においても全く不満はありませんでした。正直、北京の経験からこれだけすべての面でちゃんとしたホテルがあるとは思っていませんでした。


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つり革のない地下鉄      スイスホテル

それでも強いて不満な点を言うと、洗面台と蛇口の位置関係が妙なので常に水が外にはねることと、ガラス張りの浴室の隅にトイレが配置してあるのですが、これになんらかの遮蔽物を配置してもらいたいこと、それにこの時代に有線LANに対して1分30元のチャージはいくらなんでも高すぎなんでないかい?

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落ち着いたインテリアとガラス張りの浴室      1分30元は高い!

ところで、今回の旅行は、私が卒業した広島大学附属福山高校の同級生数人で上海旅行を企画したものです。というのも上海にも会社を持っている先輩が「ワシがうみゃーもん食わせるけーみんなで遊びにけー」と言うので、2年越しで話が実現したものです。といっても、一応夕食とホテル予約は全部この先輩のお世話にはなるものの、それ以外の日程は全部独自企画で別行動というものです。

ホテルに着いたので、早速この先輩に連絡します。今回、こちらで現地SIMで実験しようと思って用意したGSM/3G対応SIMロック解除済み白ロムです。とりあえずはSoftbankのSIMのままで、キャリアがCHINA MOBILEに変わっていますが接続先日本で問題なく電話帳のDocomoの番号にローミングできました。先輩もこの日に羽田−虹橋で一足先にこのホテルに入っているはずなのです。最初は得体の知れない番号から電話がかかってきたので、しばらくは無視していたらしいですが。

ホテルのロビーで顔合わせして、7時にレストランで落ち合う約束をして別れました。その後同行者がしばらく寝たので、しばらく休憩して部屋のLAN接続を確認したりして過ごした後体勢を整えなおして出撃して、早速地下鉄利用で、東京で言うと銀座4丁目に相当する南京東路駅まで行ったら、もうあたりが薄暗くなる時間になってしまいました。ここは歩行者専用道路で電気遊覧車なども走っていますが、おのぼりさんで大混雑です。

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用意したUNLOCK済み白ロム         南京東路の歩行者道路

とりあえず、これも予習しておいた外貨自動両替機で1万円の両替をします。この機械がこの南京東路の海侖賓館というホテルのフロアにあって、これを使うと手数料なしなのです。本日のレートは747元、つまり1元=13.3円か、まあまあですね。あらかじめ三菱銀行人形町のカレンシーショップで800元買って行ったのですが、このときの実際レートが12.5円くらいのところを14.2円だったことを考えると、まあここまで来る価値があるかどうかは微妙ですね。ま、こういうやつを試してみたい、というのが私の旅行のスタイルなのです。

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海侖賓館、派手!         手続費0がポイント

さて、これで下準備はすべて終わりましたので、とりあえずお約束の外灘(ワイタン)バンドに行きます。こここそ、冒頭に挙げた2枚の写真が写されたポイントなのです。つまり、上海に来たという記念写真を撮るポイントなのです。時刻は土曜日の6時前ですが、まーものすごい混雑です。薄暗い遊歩道をどこから湧いてきたかというくらいの人数がをぞろぞろ歩いていて、とてもまともに記念撮影などできません。どうですかこれ、冒頭の写真と同じアングルで撮ってみましたが人間を撮っているとしか思えませんね。雑踏はむろんこのシリーズのテーマではありますが、この種類の雑踏は疲れるだけで全く楽しくないですね。

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浦東方面の人波         逆方向。時計の時刻は5時半

ここはこれ以上なにもないので、レストランで待ち合わせした7時までの時間を使って、ここから1Kmほど北にある七浦路(チープールゥ)にタクシーで行きました。ここは巨大な服飾市場があって、上手に探せば安く買えることから英語のチープ(安物)も意味しています。

土曜の夜にこういうエリアがデートスポットになるのは中華圏の常識ですから、ここも、ものすごい混雑で、とても写真を撮るどころではありません。ここの写真に関しては、どこからか拝借した写真でお許しいただきますが、実際にはこれ以上の人波が車を通行止めにした道の隅々まで埋め尽くしていました。

このシリーズのタイトルにしているくらいですから、自分では雑踏が好きだと思っていた認識がちょっと怪しくなってしまった瞬間でした。この服飾ビルの内部は蟻の巣のように数百のブースにさまざまな衣料を売っていて熱心に呼び込みます。また、通路では「ニセモノあるよ、見るだけ見るだけ」と、ずーーーーーーーっと付きまとうのが人民共和国のスタイルなのですが、同行者はこれにすっかりおびえてしまい、こりゃいい思い出にはならないし、タクシーもつかまらないので、地下鉄で南京東路に戻りました。

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中国のサイトから七浦路の雰囲気を出しているのを拝借しました

さて、ここでなぜ今回は「バブリー上海」なのかという説明をいたしますが、実は今回は夕食が3回とも異常にバブリーなのです。むろん自前でこんなバブリーな食事ができるわけがありません。すべて先輩のおごりです。あえて詮索しないのが礼儀というものではありますが・・・全部で7人分の食事となると全部でン十万には・・・いやいや詮索しないのが礼儀ですから、あえて考えるのはやめて素直にゴチになりましょう。

さて、その豪華夕食の第一回めは、そりゃもう11月の上海ですから上海蟹しかないでしょう。というわけで南京東路のすぐ脇の九江路にある「成隆行蟹王府」です。香港の店ですが、80年代に3店だけ中国政府が指定した蟹専門店の一つで、どのようなレストランガイドにも上海蟹専門店のトップに出ています。

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九江路にある「成隆行蟹王府」         これよ!これ!

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ほれほれ、これよ!         右端が先輩、ゴチになります!

以前、香港で、これは大学の先輩の丁先生におごってもらって北京ダックを食べたときにも感じたのですが、たくさん食べないとわからない、という種類のおいしさは確かにありますね。コース料理にある、もったいをつけた一個二個の北京ダックを食べても、なんの感想もないのと同様、上海蟹がちらっと入っている料理を食べてそのおいしさをわかるのはそりゃ無理というものです。やっぱり蒸したてを素手でアチアチといいながら、箸で身をほじくったり、ちゅうちゅうみそを吸ってはじめて本当のおいしさがわかるのです。今回はしっかり堪能しました。先輩、ほんまゴチになりました。

上海はタクシーがつかまりにくいと聞いていましたが、本当につかまりません。やむなく全員で地下鉄に乗って静安寺まで帰りました。いやー豪華な初日でした。



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