雑踏の誘惑

北京の5.5日

11〜16,Aug.2000

北村 家康


3日

旅行中はどうしても早く目が覚めてしまいます。外を見るとどうやら天気はよさそうです。昨日の失敗に懲りて、まず最初に八達嶺長城に行く方法を検討しました。その結果「基本的には前門からいちばんたくさん出ている」「遊1から遊4という路線が長城観光バス」「路線バスで八達嶺に行く919路は徳勝門からしか出ない」ということがわかりました。また、「地球の歩き方」によると観光バスは北京站(駅)からも出ているということがわかりました。さすがに路線バスで75kmを走るのはけっこうつらいものがありますし、この炎天下にエアコンもないに決まっています。値段は8元(100円)で安いのですが、一日を費やすツアーではさすがに500円程度をシャレで節約するのは酔狂が過ぎています。とは言え、外国人/日本人向きの800元(約1万円)観光バスに乗るくらいなら行かないほうがましです。結局北京站発の中国人向け観光バスに決定しました。
朝の北京駅

  というわけで、まず北京站へ行きます。建国路を通っている4路のバスに乗って北京站口で降ります。歩いて駅前ロータリーの中を捜していると、「遊2」と書いた停留所にバスが止まっていて、おばさんが「早く乗れ早く乗れ」とせかしています。「丹東黄海観光」というこの観光バスはこの後見ていると、北京で最大手の観光バスのようでした。よくわからんまま最後尾の席に乗り込んで座るとエアコンが効いています。やれやれ助かった!早速隣の席のオジサンに「私は日本人で中国語を聞いてもよくわかりません」「切符はどこで買うんですか?」また「切符はいくらなんですか」と聞いてみる(むろん中国語で)と「43元(580円)で、座っていればとりにくるよ」と教えてくれました。

  で、そのうちガイドとは別のおばさんが切符を売りにきます。やれやれてなもんで、バスガイドも乗り込んで午前10時半のスタートで走り始めます。どこの国でも同じで、ちょっと走って高速に乗ったあたりでバスガイドがあいさつと簡単な予定の紹介をします。普通の会話だと私の中国語の実力ではまあ相手の言っていることの2割くらいを理解できますが、このガイドの中国語はマイクを通しているせいもあってほぼ100%理解できません。で、することもなく手許の切符を見ると「居庸関長城」「明十三稜長稜」「定稜地下宮殿」と書いてあります。ん?八達嶺は?しまった!八達嶺以外のバスに乗ってしまったか!と思ってもすでにバスは高速を100km/h以上のスピードで走り始めています。


し・しまった!・・・


急いでガイドブックを読むと(私のは昭文社の「個人旅行 北京・上海」相棒のは「地球の歩き方 北京」です)居庸関は八達嶺の10kmほど南で、風景がいいことで知られている、とのことで、写真を見たかぎりでは八達嶺と区別がつきません。まあ、それならそれでいいやとあきらめて、なんとか眠ることに専念します。

  やがて小一時間走って、稜線にずっと長城が見えているエリアに来ました。「八達嶺」という表示もあちこちに見えます。ガイドの口から「バーダーリン」という言葉が頻繁にでているので、これはきっと「ここが八達嶺だが、居庸関の方が美しい」てなことを言っているのだなと勝手に解釈しました。11時15分くらいに居庸関に到着しました。ここで隣のオヤジに「何時に集合するの?」と聞いてみると「1時50分だ」と言っています。「食事もめいめいでとるのか?」「そうそう」てなもんです。解散時に「日本の方ですか?」と声をかけられて、見ると大学生の二人連れです。まあどこに行っても酔狂な日本人はいるものです。「わかりましたか?」と聞かれて「全くわからないけれど1時50分って言ってますよ」と言いつつ、彼らも不安なのでガイドと運転手に筆談で聞いたところ「違う違う!12時20分だよ!」と言っています。あのオヤジは・・・!

  居庸関の「天下第一雄関」と書いた牌楼(例の中華街の門みたいなやつのこと、この文字は長城の東端として有名な山海関のパクリだと思う)をくぐって見回してみると、周辺の稜線を長城が一周しているのがわかります。登り口も右が急で、左がゆるいようですが、ほとんどの観光客は右の急な方を登っています。
かなりきつい!

  ここしか見られないのならここは急な方を、と登り始めたのですが、これは思いの外きつい運動で、石段も高いところでは50cmくらいの段差がありますし、最後は手すりにしがみついて体を引っ張り上げながら、やっとの思いでまずまずの見晴らしの望楼に着きました。


望楼より眼下に牌楼を望む


長城の構造は、八達嶺も同じですが、基本的には稜線を縦走する舗装道路と、その左右に転落防止を兼ねて作られた城壁でできています。そして、200mくらいおきに望楼を作ります。望楼は、住めるところまで行きませんが、雨風は防げて寝泊りできる程度の部屋になっています。これを、見渡す限りの山の稜線で2000年にわたって作り続けると万里の長城の完成です。実際、バスで走っても走っても稜線に長城が連なって見えている様子はそれに要した労力を考えると「バッカダネー!」としか言いようがありません。北京のそばの長城は元から明の時代(日本の鎌倉時代から室町時代)にできたもので、初期の土ではなく日干し煉瓦を使って作られています。観光地ではさらにそれを修復している様子が随所に見えます。
見渡す限りの稜線に!

  集合時刻の12時20分に帰ってみると、すでに全員バスに乗り込んでいます。隣のオヤジに「いやー疲れた」と言ってやると、嘘の時間を教えたことも知らない顔でにこにこ笑っています。さて、バスは出発しましたが、また「バーダーリン」と言っています。そのうち、ちょっと走ったら観光地特有の大きな駐車場へ入ります。見ると、なんと八達嶺長城ではありませんか。やっぱりこちらもコースに入っていたのです。まあそれはそうです。なんと言ってもこの観光バス路線の最大の目玉なのですから。しかし、もうすでに体は限界に達しています。この上どうやってあれを登れちゅうねん!

  とりあえず食事してくださいと言ってガイドから食事の2元割引券を渡されます。駐車場の脇には大きな食堂、そして沿道に土産物屋がいっぱいというのはどこでも同じで、そのまま日光でも置き換えられそうです。ところで、ここでバスガイドが多少英語も話すということがわかり、けっこう気が楽になりました。このガイドは普通に話しているときはなかなかかわいいのですが、マイクを持って一気にしゃべる時は妙に眼が座って不気味なものがあります。集合は2時40分です。こんどは英語でも聞いたので間違えようがありません。

  まあとりあえず食事しろと言うのだから食事することにしました。通路でも焼きそばとか売っているのですが、もらった割引券は2カ所の大食堂でしか使えないとのこと。相棒は15(-2)元のランチ、これは白飯にオカズの野菜炒めと肉と豆腐の煮込みのようなものがついてなかなかおいしいという意見でした。私は13(-2)元の拉麺、これは字義の通り、例の両端を引っ張って延ばす麺で、私はあれは見せ物と思っていたので実際に目の前でチャチャッと作るのには驚きました。一人前だと切り分けたタネを7〜8回延ばすだけで、考えてみればこれでも2の8乗で256本の麺になります。塩味の鳥スープに香菜が多量に入って非常に美味でした。相棒の意見ではベトナムのフォーに似ているそうです。
どうやって登れっちゅうねん!?
さて、これから2時40分までどうしましょう、と言っても、これがこの観光のメインイベントだけに登る以外の選択肢はありません。しかしもう一度登ると完全に体が壊れ、翌日以降の日程にも差し支えます。しかし、幸いに八達嶺にはロープウエイがありますから、これを使えばとりあえず雰囲気だけはわかるはずです。というわけでロープウエイ乗り場の方に歩いていくのですが、これが最初の駐車場からばかに遠いのです。普通、日本の観光地なら、団体のバスの駐車場から、いいとこ徒歩5分くらいのところにこういう施設があるのではないでしょうか。しかし、少なくともこの日に回った範囲では、中国では1kmくらいは歩くうちに入らないという認識のような気がします。レゲエの神様、ボブ・マーレイの曲に「No woman no cry」(泣かない女はいない、あるいは、女がいなければ泣かずにすむ、くらいの意味でしょうか)というのがありますが、それにならって「No walk no china」(歩かないのなら中国に行くな)というスローガンを作ってみました。

  八達嶺の長城はスタート地点の居庸外鎮という住居スペースを中心に、急で短い南側と緩くて長い北側にそれぞれ2km程度が公開されています。ほんの少し歩くのもいやになってきたので乗り場が近い南のロープウエーで南四楼に、ここから下るわけですが、下りは下りでけっこう爪先や筋肉に負担がかかります。まあとりあえず長城の最高地点までは見たようで、この望楼で証明書を売っていました。
はっきり言って死にました

  2時40分に集合して、明十三稜に向かいます、これは第3代永楽帝以降の明の13人の皇帝の陵墓が一ヶ所に集合しているものです。しかし、皇帝の陵墓ですから、一個ずつかなり広いもので、集合しているといっても10km四方くらいのところに散らばっています。東京に置き換えると環七の内側くらいでしょうか。こんなところを歩いて回るわけにいきませんので、最大規模の永楽帝の長稜と唯一地下が発掘されている万暦帝の定稜だけをバスで回るのです。まずバスは長稜に着きましたが「長」と聞いただけで中に入る気をなくしてしまいました。で、門の前の売店で4元の冷たいミネラルウオーターを2本飲みながら集合の4時30分までぐだぐだとすごしました。

とりあえず写真だけは撮っといて・・・


次は地下宮殿の定稜に着きましたが、いきなり土産物屋に拉致されてしまいました。つまり、ツアーの最後にここで財布の中身を搾り取ろうという万国共通のしかけです。装飾品関係の展示に見えて実は売店という、いかにもという施設。肝心の定稜はというとはるか彼方というあくどさです。しかも、たいして見るものもないのに6時10分集合という、ここに思いっきり時間を使う設定です。また駐車場の回りには地元で取れた、桃と李(すもも)の売店がずらっと並ぶという山梨県のような光景です。地下宮殿は夏でもひんやりしています。台北の故宮博物院1階に発掘現場が再現してあったのはこの陵墓だったことに展示の写真で気付きました。

  やっとこれですべての予定を消化し、ほとんどの客が桃李の包みを手に手に持って7時5分に北京站に着きました。
北京站暮色、体はドロドロ

  駅前のタクシー乗り場はどこでも当局が目を光らせているため、悪質ドライバーは少ないものですが、おのぼりさんの多い北京駅ではちゃんとメーターを倒すかわりに余計な所をぐるぐる回るという手口です。案の定いきなり違う方向に走り始めます。違うところを曲がるたびに声をあげ、運転手の名前を読むとちょっとびくっとしました。最後に、もう回らず目的地の向かいでおろせというとさすがに道を知っていることに気付いたようで。降り際に「慢慢走」(お気をつけて)などとお愛想を言います。レシートを要求しましたが、それでも3元分(40円)ボらましれた、くやしい!
クソー!3元ボりやがった!


  もう体はどろどろです。とりあえず風呂をあびてエアコンをガンガンに利かせてしばらくベッドの上で死にました。が、いつまでも死んでいるわけにいきません。もう8時近くなっているので、夜が早い北京では早く出ないと食べるところがなくなってしまいます。今日は安価豪華の後なので安価の番です。で、とりあえずタクシーで西単に行き、NIFTYなどで名前の出ている、民航大厦(ビル)向かいの西安餃子を捜しましたが、その一帯は整地されていてなにもありません。建設ラッシュの北京ではこういうことはけっこうありそうです。

  私も相棒も疲労の極に達しています。西単駅の上にある巨大デパートの中友百貨の裏に小石虎胡同という横丁があって、一杯飲み屋という感じの店が並んでいます。私は最終日は一人で天津に行くつもりだったのですが、その目的というのが、西太后が愛したという「狗不理」で小さい肉饅を食べることだったのですが、ここにその「狗不理」を発見してしまいました。早速入って注文しようとしたのですが、どうもこちらの言っていることが食い違っているようで、注文を取りに来た小姐はぎゃんぎゃんとまくしたて、何を言っているのか全くわかりません。

  筆談も交えつつ、小さい肉饅9個を含む套餐(セットメニュー)を2種類たのみました。三鮮包子、野菜包子、粥、冷菜(辣白菜、醤牛肉)にビールで44元(600円)です。さすがに腹いっぱいです。もう体が死にそうで西単の視察をする根性もありません。タクシーを拾い、ホテルに帰りました。14元の適正価格です。ところで、この「狗不理」ですが、いくらなんでも屋台に毛が生えたような店で、料理のつくりも荒く、とても老舗の支店とは思えません。新東安市場の中にも「正宗天津狗不理」というのがあるところを見ると、これは「本家」とか「名代」とか言うようなもので、そういうからにはニセモノだと自分で言っているようなものです。中国のありがたいところは、それでも東京で食べる横丁の中華料理よりはるかにうまいことですが。

  ここで、北京のタクシー事情についてちょっと解説を。一番安いのは面包(パン)という軽のワゴンですが、これはほとんど使いません。主力は天津で作られる天津夏利(シャレード)で4kmまで10.4元、その後1km1.6元ということになっていますが、実際には1元単位でメーターが上がっているようです。まあ大雑把に5kmで12元という感じでしょうか。その上はクラウンクラスの「2元タクシー」で初乗り4km12元、後1km2元ですが、帰りの飛行場行き以外に乗りませんでしたので、これについてはよくわかりません。客は一人のときは助手席に乗ります。運転席のまわりは檻で囲まれていますので、かなり助手席は狭くなっています。ぼられないコツは、まずメーターを倒していることを確認すること、運転手の名前と番号を控えること、領収書を要求すること、道順を指示することです。


  

天津夏利に一人で乗るときは助手席に     2元タクシーはワーゲンサンタナが多い



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